最近読んだ本。
無名の陶芸家が今まで見たことのないような見事な経管(花器などに使われる円筒形の器のこと)を焼き上げた。
本当に嬉しくてそれを眺めながら妻が淹れた玉露を2人で楽しんでいた。
そこへ道具屋が現れる。
その経管を見て、唐物の砧青磁のようだと絶賛しつつも容赦ない要求をしてくる。
古色をつけろというのだ。
つまり、細工をして年代物のように見せかけるのだ。
ポリバケツの水に劇薬のフッ化水素酸を入れ、そこに焼き上げたばかりの作品を沈めるところから話は始まる。
この経管はデパートで売られ、それから次々と人の手に渡る。どんな理由で購入し、贈るのか。どんな理由で手放すのか、値は見る人によって変わり、桐箱に入っているのか乱雑に包まれただけなのかによってもどんどん変わっていった。蚤の市まで行き、そしてはるかスペインまで行って、最後はなんと作り出した本人と再会するのだ。
もちろん喜びの再会ではない。
最後のシーンがなんとも…。
単行本の初版は昭和52年。
何が面白かったかというと、青い壺が見た昔の人たちの生活が興味深かった。
定年退職したばかりの夫との2人暮らしが苦痛でならないのだけど、それを人に言えずに悩む妻は今と大して変わらないのだ。
嫁姑問題や親子の問題なども今も昔も変わらないなぁ、と。
戦前と戦後での生活の落差も描かれている。
面白かったのは、女学校時代のクラスメイトたちが50年ぶりの同窓会で京都旅行をするところだ。
着物で旅行って面白い。
初めて乗る新幹線の冷房がどのくらいかわからないので羽織りは合わせか単か?
宿に着くと、帯を解いちゃうのか!
帯板に札束を入れて隠すのねぇ。
腰が曲がらないように整形外科で作ってもらったコルセットをして着付けるってすごい!
アメリカで息子に買ってきてもらった入れ歯洗浄剤が珍しく、一緒に洗浄液に入れてもらっちゃうとか。ピカピカになった入れ歯を見せ合うシーンとか。
楽しいものからジーンとくるものまで、あるいはドロドロしたものまで13編。
青い壺は家政婦のように床の間から病室から箱の中から見たのだ。
私が知らなかっただけなのだが、作者は「華岡青洲の妻」や「恍惚の人」を書いている有名な人だった。
どうりで読み応えあるわけだ。